僕にはなぜか忘れられない光景がある。
それは、10年以上も前に街の定食屋で見た、
何ということもないできごとだ。
隣のテーブルで食事していたのは、
お爺さんとおばあさんと呼べるような
妙齢のお二人だった。
お爺さんは、自分のおかずの中から、
ひょいと一品を、おばあさんの皿に置こうとした。
しかしおばあさんのは言った。
「イイわよ。私は……」
お爺さんは、それを自分の皿に戻し
沈黙した…..。
このとき僕に、
お爺さんの気持ちが痛いほど伝わって来た。
きっとその一品は、おばあさんの好物だったのだろう。
(美味しそうだったし)
お爺さんは、それをおばあさんに上げようとしたのだ。
お爺さんの無意識にしてみたら、
それは、騎士が姫に花を差し出すような
ものだったと思う。
男性は生まれてから死ぬまで、
女性にとってのヒーローでいたい。
(中には、窮地に陥ったら、
女性を置いて、自分が真っ先に逃げ出す男性もいる。
まあ割合としては少ない……..とは思うが)
それはともかく、
窮地の女性を救うスーパーマンや、
敵に捕えられた姫を救う騎士は、
ヒーローでいたい男性の理想なのである。
(何かをして上げて女性から受ける賞賛ほど、
自分を元気にするものはないのだから、
男性は何だってやるのだ)
たとえそれが、
自分のオカズを減らして、
おばあさんの好物を差し出すような行為であっても、
ヒーロー願望の表れなのである。
男性をヒーローにするのは男性ではない。
もし、無意識には、姫に花を差し出すような気持ちで、
自分にオカズをくれたお爺さんに対して、
おばあさんが別の反応をしていたら、
どうだっただろう?
もし仮に、おばあさんが
「あなた、ありがとう〜。
私の好物知っててくれて嬉しいわ❤️」
なんて言ったらどうだっただろうか?
(お爺さんは無意識に期待していたのだ)
その瞬間、お爺さんはヒーローになる。
無意識の世界では、もはや宮殿にいる王子である。
ところが、「イイわよ。私は……」なんて返されてしまった。
その瞬間、ヒーローどころか、
単なる間抜けなジジイになってしまったのだ。
ここで気づいて欲しいことがある。
おばあさんは、王子になるかも知れなかった彼を、
ただの間抜けなジジイにしてしまっただけではない。
おばあさんは、自ら、宮殿の姫になるチャンスを失ったのだ。
自分をただの冷たいババアにしてしまったのだ。
賢い女性は逆の行動を取る。
男性をヒーローにすることで、自らもヒロインになる。
西洋の言葉だけど、
「妻の前に英雄(ヒーロー)はいない」というのがある。
これは、『男性を英雄(ヒーロー)にするかどうかは、女性次第』、
という意味なのである。
あるいは、『男性を英雄(ヒーロー)にしてくれる妻などいないから
諦めなさい』という意味かも知れないが…….。
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