こんなに大ごとになるとは思っていなかった、というのが最初の僕の感想である。会場には何百人といる上、花や壇上まで用意されている。

そして学長、教頭先生など主だった大学関係者たちと一緒に、僕は壇上に上げられた。その上、スピーチまで求められたのだ。

 

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<来賓の祝辞>

 

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<学生たち>

 

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<学長のあいさつ>

 

これでは、“ねぇ、面白いからみんなで遊ぼうよ〜”なんて、言ってられない。

さて、開会式が始まり、来賓は次々と祝辞を述べる。

 

学部主任は、“これはかつてないイベントです”というようなことを英語でスピーチした。さらに、“GAMEチャリティックスは数理をイメージ化するゲームであり、これの哲学的な世界云々”と語る。    

僕を、“そこまでチャリティックスについての理解が進んでいるのか!”と驚いた。 

それにしても、冷や汗どころの騒ぎではない。いつまでも終わらないのは、カリムの延々と続くチャリティックス論の演説だった。    

そしてそれに耐えている自分は、何だかインドのコメディ映画の役者にでもなったような気分になって来た。今にもダンサーたちがまぎれ込んで来て、みんなで一緒に踊り出すのではないか、と思ったほどである。

 

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<チャリティックスとは〜、というカリム氏の演説が止まらない>

 

やがて指名を受け、僕がしたスピーチは、カリムの100分の1にも満たない短いものだが、それは以下のようなものだった。

 

“人生は目標に向かって戦略を立て、選択を決断していくことで成り立っています。僕が、このゲームを創ったのは、人々に、人生で成功するための戦略や決断のスキルを磨いて欲しいと思ったからです。さらに人と人が、国境を超えて友だちになって欲しいと思ったからです。

 

僕は皆さんに、このゲームを通して、国境を超えてたくさんの人と友だちになって欲しいと思います。また、自己実現に必要な、戦略や決断力を磨き、ぜひ良き未来を創って頂きたい。そう心から思っています。今日は参加してくれてありがとう”

 

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<ラジョーさんがベンガル語に通訳>

 

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<開会式に立ち上がって拍手する人>

 

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<さあ、いよいよか?>

 

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<始まるぞ〜!>

 

いやはや大変な1日になった。300人以上もの学生たちが入り乱れての対戦である。勝った回数での順位戦なので、誰が勝ったかなどの統計も取らなくてはならない。もう、“わいわい、ガヤガヤ”どころの音量ではない。

 

講堂の半分は、もはやマイクの声だって聴こえやしない。にも関わらず、マイクを使って演説をがなり立てているカリムと、その部下。講堂は、僕たちに“バングラデシュの選挙って、きっとこんな感じなんじゃないかな〜”と思わせるほどの騒然ぶりであった。

 

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<講堂全体が熱気に包まれている>

 

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<女子学生も負けていない>

 

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<一見地味だが熱気はすごい>

 

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<数理をイメージ化しての読み合い>

 

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<哲学的理解をしていそうな女子学生>

 

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<真剣である>

 

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<まず一勝したわ!>

 

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<緊迫感と楽しさが入り混じった空気>

 

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<やったー!>

 

勝敗の統計は、モングやナイナイなど、ラカイン人(NPOユニが支援している少数民族仏教徒)のボランティアたち数人で走り回って行っている。しかし、300人以上もの人数が相手では、とても人手が足りない。

 

また中にはルールを間違えて憶えている人もいて、僕らも走り回って、直したりした。(英語が通じない人もいて、そうなると怒鳴ってボランティア・スタッフを呼ばなければならない。しかし講堂は、カリムの演説とみんなのガヤガヤ声の音量のため、それも聞こえない)

 

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<汗だくで走り回る、ラカイン人ボランティアのナイナイ>

 

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<僕らも大声でどなりながら(講堂全体が大音量のため)、必死にルールを訂正して回った>

 

1時間後、先生が走り回ってストップをかけた。そして勝敗を計算し、4位までの入賞者が決まった。

しかし、すったもんだが始まったのはこの後である。なんと発表後に、勝敗統計の見落としが見つかったのだ。あっちゃー!

 

そこで壇上で、先生が発表を訂正した。ところが、女学生を含めて何人もが手を上げて、「先生! 統計の発表に間違いがあったのなら、私はもう一度、最後のトーナメントを行うべきだと思います!」などの主張が次々と繰り広げられた。

僕は驚いた。と いうのは、僕はてっきりイスラム教の女性は、「慎み深く、男性の先生に反対意見を言うことなんてない」と、思っていたからだ。

しかしこれは、「日本の女性 がみな大和撫子である」とイメージする、西洋人男性の精神構造と同じ勝手な思い込みだった、と気づいた。(東西変わらず、男性というのは自分好みのイメー ジを女性に投影するものなのだ)

 

まあ結局、感じの良い熱血先生がうまく話をまとめてくれた。そして最短の時間で、最後のトーナメントを、やっと終えることができたのである。

 

またその頃には、学長たちなど主賓が再び壇上に登り、授賞式が行われた。11時から始まったイベントは、かくて無事終了したのである。時間は、すでに昼の3時ごろであった。

 

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<“上位入賞者を発表します!”>

 

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<学長から賞状の授与>

 

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<優勝者の授賞式>

 

大学からラジョー家に戻った僕たちは、ボーッとあまりものも言わずにお昼を食べた。そして、各自しばらく昼寝して休んだ。ナイナイなどのボランティアたちも、センターで寝ていたらしい。

そりゃそうだろう。無理もないな、と思った。300人以上がガヤガヤと騒然とし、その上マイクががなり立てている中で、ずーっと走り回っていたのだから。

 

夜には、翌日から回る、ラカインの学校や村についてのミーティングを行った。朝昼夜、バングラデッシュ滞在中はフルに活動するのである。